知的財産(IP)と中小企業:あなたのアイデアで新しい事業を

野村 弘幸(のむら ひろゆき) アイ・ピー・アイ株式会社 代表

大学卒業後、商社に入社したものの映画が好きで映画に関わる仕事をしたいと思っていました。アメリカ映画協会日本支社に入社し海賊版ビデオ対策に従事。海賊版対策に邁進する中で、身近に著作権を学ぶことになりました。映画はフィルムや放送という一般の人々が家庭で扱えないコンテンツでしたが、1970年代後半から映画産業における大きな技術革新の一つである家庭用VTRとテープ(VHS/βテープ) の普及により、誰もが自宅で好きな映画を観ることが出来る時代が到来しました。その一方でレンタルビデオショップに違法コピー(海賊版)が溢れ社会問題となりました。関係各位の努力で映画の海賊版が駆逐される一方で、今度は、映画会社が許可していない様々な場所で、海賊版や市販用ビデを使用した無断映画上映がクローズアップされました。バスの中でも映画は違法に上映されたましたし、ホテルでも数十室の小さなホテルから数百室のホテルまで、館内放送を利用した違法な映画上映が安易に行われていました。
こうした隙間の分野・施設で映画に対する需要がある一方で、そこに正規に映画を提供する手段が殆どなかった為、海賊版の排除、駆逐だけでは著作権が守られないこと、正規の流通 ルート/マーケットを確立しない限り、海賊行為がなくならないことを実感し、MPA加盟社に正規ルートを作ることを提案、自ら販路を作るべく企業化を思いつきました。
当社のビジネスは、ホテル、バス、上映会、インターネットカフェ、キッズルーム(コーナー)、図書館等、業務用/Non-Theatricalの映画の提供・流通業務です。これらの分野は、映画館や放送、個人向け配信と言った映画会社の売上において多くのシェアを占める分野ではないですが、確実に需要が存在し供給体制さえ整えれば立派に収益につながります。
提供方法には、今は市場からなくなりましたがVHS/βテープ、DVD/Blu-ray、地上波放送、CS/BS放送、そして配信へ、またアナログからデジタルへと映画産業の技術革新とともに変わってきています。当社の業務は著作権法の中でも映画の著作物についてのみ認められた権利、複製物により頒布する権利の頒布権(著作権法26条)に守られた業務です。
また、映画ビジネスは、そうした提供方法や分野別にいつ映画の使用を認めるかといった「ウインドウ」の管理が非常に重要な産業です。
つまり、どこでいつ映画を公開するか、同じ映画作品でも映画館、DVD/Blu-ray化、配信、業務使用、有料TV、無料TVと同じ作品を時間を変えてリリース・公開することでより多くの収益を上げる特殊な商品です。これらも上映権(第22条の2)という著作権の一つで守られています。 そういった意味で市場は小さいですが、弊社が担う業務用、B to B to C市場の重要性は、著作権という権利の保護からも今後も大切にしていきたい市場だと考えています。

野村 弘幸(のむら ひろゆき) アイ・ピー・アイ株式会社 代表

1986年アメリカ映画協会 日本支社入社。1992年 業務用映画ソフトを扱うアイ・ピー・アイ㈱を設立、現在では同社の他、図書館向けDVD/CD販売会社や音楽関連出版社を経営する傍ら、映画へも出資し映画制作にも関わっている