知的財産(IP)と中小企業:あなたのアイデアで新しい事業を

山口 仁一(やまぐち じんいち) ヤマグチロボット研究所 代表

ロボット技術との出会いは、小学生低学年の時に、毎月のおこづかいで支払っていくことを約束に購入した百科事典に、将来、ロボット技術で体を改造することがファッションになるとのイラストがあり、衝撃を受けた時でした。
現実の最先端ロボット技術との出会いは、1985年開催のつくば科学万博で展示された鍵盤楽器演奏ロボットや2足歩行ロボットです。

早稲田大学の加藤一郎先生とソニー創業者の井深大さんとの交流が縁で、大学教員時代、後に独立して、ソニーへ人間型2足歩行ロボットの研究開発指導やビジネス展開を前提とする発明をすることになった事をきっかけにロボット技術研究がビジネスと結び付きました。当時の技術役員さんや知財部長さんに、ビジネスにおける知財の大切さや発明の仕方を教えていただきました。私が長くピアノを習っていたこともあり、ロボットの発表には、音楽と合わせたロボットのダンスデモンストレーションを提案しました。  大学にいたころは、知財制度とは無縁で、論文を書いておけば大丈夫、学会賞を受けているから大丈夫と考えていました。しかし、同時期に、企業でも同じようなロボットが、発表され、その企業では、しっかりと知財制度を活用しており、国のロボットプロジェクトは、その企業の知財を活用する方向に大きくシフトしてしまいました。

ロボット技術開発は、最終的には実用化を目指します。知財制度を活用して、現状の立ち位置を確保するとともに研究開発を継続できるようにする意味でもとても重要と考えます。 知財制度は、私のような個人の発明家や中小企業の経営者にとっては、とてもありがたい制度で、なくてはならないものですが、近年の特許法改正によって、企業に勤める従業員にとっては、従来よりもクリエイティブな仕事に対するインセンティブが低くなってしまったように、指導をしていて感じます。 ネットワーク技術や3Dプリンタなどの小規模製造装置の発達により、企業だけでなく、個人や個人同士が連携しての活動・ビジネスが、どんどんしやすくなってくるかと思います。そのような状況で、その活動をとても力強くサポートしてくれるものが知財制度と考えます。多くの方が、知財制度を学び、活用していくことで、よりクリエイティブな、わくわくする世界がどんどん広がっていくことを期待します。

最後に、最近の研究開発についていくつか紹介します。

① 日野おもてなしロボット

a. 概要(開発の経緯など)
スポーツ祭東京2013(第68回国民体育大会)の3競技の会場が日野市内に決定したことを契機に、市内の複数の中小企業と大学が連携してロボット開発を行うことで「ものづくりのまち日野」をPRするプロジェクトとして日野市の支援を受けて発足。
b.取得された知的財産権やその狙い
権利化までの期間とコスト面から、意匠、商標を中心に取得。
c.今後のビジネス展開や開発の方向性について
大型機は、市内のイベントや大学用の研究プラットフォームとして、小型機は、日野市立の小学校のプログラミング教育用に活用。今後は、一般向けへもビジネス展開できたらと考えています。

日野おもてなしロボット「ピノックル」(大型機:子供サイズ)

② 災害対応ロボット「がんばっぺ」

a. 概要(開発の経緯など)
福島県いわき市内の企業グループからロボットの研究開発指導の依頼を受けて、開発された福島県産ロボット。NHKの「福島をずっと見ているTV」などで開発の様子が紹介された。
b.取得された知的財産権やその狙い
各種(意匠、商標、特許)の知的財産権をバランス良く取得。
c.今後のビジネス展開や開発の方向性について
がんばっぺ1号、同2号の開発により得られた技術を用いて、ビジネス展開が比較的容易と思われる、力制御型のインテリジェントアシスト駆動ロボットユニット(がんばっぺ3号)として実用化開発・ビジネス展開を進めている。このロボットは、駆動輪に作用した力に応じてインテリジェントにアシスト動作を行うもので、台車等に取り付けて用いる。操作がとても簡単で、福島県産ロボット導入支援助成対象ロボットでもある。なお、1号と2号は福島県災害対応ロボット産業集積支援事業の補助を、3号は福島県地域復興実用化開発等促進事業の補助を受けて開発された。

  • がんばっぺ1号(消防ポンプ運搬ロボット:中型機)

  • がんばっぺ2号(消防ポンプ運搬ロボット:大型機)

  • がんばっぺ3号(力制御型インテリジェントアシスト駆動ロボットユニット)

③ 文楽ロボット

a. 概要(開発の経緯など)
日本の伝統芸能、絵画、アニメーションなどの美の技術をロボット技術に変換することを目的に開発された人間型ロボット。大阪芸術大学を代表大学として東京海洋大学、筑波大学、法政大学など、多数の大学や企業・個人が連携・協力し、科学研究費助成事業の補助を受けて開発された。弊所は、文楽人形の構造から人間型ロボットの構造への変換、代表取締役を務める企業では、ロボット製作を担当した。
b. 取得された知的財産権やその狙い
各種(意匠、商標、特許)の知的財産権をバランス良く活用・取得。
c. 今後のビジネス展開や開発の方向性について
まだまだ動き出したばかりのロボットですが、その豊かな感情表現力の高さに驚いています。今後は、定量的な評価を行いながら技術を磨き、様々なロボットに日本の伝統技術を活かせたらと思います。

  • 文楽ロボット(外装なし)第38回日本ロボット学会学術講演会で発表しました。

  • 早稲田2足歩行ロボットWL-12シリーズ※1:このロボットはNHKの連続テレビ小説 「半分、青い。」などに出演歴があります。

  • 早稲田2足歩行型ヒューマノイドロボット WABIANシリーズ※2:横浜の動くガンダムの内部構造に技術の流れを確認できます。

山口 仁一(やまぐち じんいち) ヤマグチロボット研究所 代表

大学院博士課程を修了し、2足歩行ロボットの安定歩行の研究で博士(工学)取得。学会賞多数受賞。開発ロボットは早稲田2足歩行ロボットWL-12シリーズ※1。大学院修了後は、同大学の研究所で教員として人間型2足歩行ロボットの研究開発・指導に従事。代表作は早稲田2足歩行型ヒューマノイドロボットWABIANシリーズ※2。その後、独立し、2足歩行ロボット技術を核として、様々な製品の差別化や新規開発をサポートする業務を行っている。ロボットを製造販売する会社の代表取締役も務める。知的財産管理技能士やAIPE認定知的財産アナリスト(特許/コンテンツ)など知的財産に関する資格も持つ。